2019年6月22日土曜日

〈制作秘話第十六回〉1-2-7前半

「ここよかったなー」っていうシーン、いろんな作品にありますよね。
でも独立したケレンミっていうのは実は存在していなくて、ストーリーがあってこその納得=結論としてのそのシーンだと思うんです。
そうでなかったら、物語は存在せず、破綻してしまいます。

1-2-7は207pから、ミルちゃんの視点で語られます。
しょっぱなからヴァニアスの歴史に触れるのは、彼女の職業柄というところ。
旧なろう版(完全消去しました)ではのっけから語られていた獅子王エドゥアルガスと神子姫、現在の〈ヴァニアスの神子〉伝説が、ここでぎゅっと要約されています。
ぼうっとしてたら、ドーガスに茶々入れられて、ミルちゃんきっと赤くなってますよ。
ミルちゃん視点だから、書かれていないだけでね。

私事ですが、LGBTが話題になりつつある現代よりもずうっと前、学生時代から、私はそういうお友達が多くいました。
バイの男女、心が女の子の男の子、少年装がしっくりくる女の子、ゲイの男の子、ビアンの女の子、ノンケだけどめちゃくちゃ乙女ハートな男の子……いろいろです。
なぜかみんな、打ち明けてくれましたので、私も「そうなんだ」のひとことで受け止めました。ちょっとびっくりはしたけど、そうなんだもの、そうなのよね。やっと、時代が私に追いついてきたかな。なんて。
ドーガスのジョシな部分を陳腐化されたオカマ(オネエキャラ)として表現しなかったのは、これが理由だと思います。
どんな人間がいたって、別に変じゃないですよ。それを指さして面白おかしく嗤うのは、自分が普遍的だと思って、他人の個性を認められないってことのあらわれではないでしょうか。
「そうなんだ」ってことで、いいじゃないですか。
他人の権利を侵さない範囲で、好きに生きるので、いいじゃないですか。
ただ、私にはその趣味がないから、お友達以上を求められたら、ごめんだけどお断りするよってだけです。

旧なろう版では、双子の覚醒シーンがかなり細かく書かれていました。
ちょっと居眠りしているグレイを、双子がじーっとのぞき込んでいて、わちゃもちゃする場面です。アニメや漫画なら入れるシーンだと思いますが、私はスパっと潔くカット。
というのも、グレイの視点に置き換える手間があったからです。ミルちゃん視点でずいずい進めます。

グレイの説教の場面では、動物を調教するテクニックが使われていたりします。
生まれたときから猫と生きていたその長年の勘みたいなものなんですが、言語を理解しない相手には語気でこちらの感情を伝えるのがベストなのです。
耳も尻尾もないのでどんなに怒っているかを伝えられないので、相手の体を拘束し力の差を感じさせて、大きな音(声)で威嚇します。このとき、決して名前を呼んではいけません。名前の音を不快なものとして覚えてしまうからです。子猫相手なら首根っこをかんでそのままうなったりすると、かなり反省してくれます。
目もそらしてはいけません。屹然と、俺が強いんだと、ヒエラルキを感じさせるのが大事なのです。
動物の話ね。
このとき、双子はまだ動物でした。

シロとクロが〈黒龍丸〉に受け入れられてからのダイジェストは、我ながらぎゅっとまとまったなと思います。今後もいい感じにぎゅっとしていきます。
伊丹万作の言葉を借りるならば
『「省略」とは、余分なものを省いたおかげで話がよく分かるようになることです。省略したせいで話が分からなくなるのは、省略では』ない。
塩田明彦は
『物語の中で省略された物事は、消えたわけでも存在しなかったわけでもなくて、ただ伏せられただけなのです。物事は伏せられることでかえって存在感を増したり、不在の影になって人物や物語世界に強い影響を与えたりすることがあります。』とも書きました。

夜の廊下で、ミルちゃんが見上げたグレイの顔の描写も、ドキッとする一瞬です。
別になくてもいいんでしょうけど、意識していると書きたくて。

甲板の風ってとっても強いんですよね。
陸上にいるといろんな地形や自然物で緩和されているのがよくわかります。
台風で地上から浮いて飛ばされた経験がある私です。
強風に面で押されると本当に負けちゃうんですよ。
よろめいたミルちゃんを、グレイは押し返すだけにとどめて、ジェントルマンなのです。

空を見上げるグレイの描写は、とっても力を入れました。
男になろうとしているたくましさ、その実、こどもっぽい純粋さもある。
そんなにない、ミルちゃんから見たグレイを知ることができたんじゃないでしょうか。
そこからの「で、話って何よ?」です。
ミルの言うことには、いつでもとげがあります。薔薇のようですね。
217pで顔を隠すくだりは、「同じことを思っててくれたんだ」っていう気持ちがにじんだはずなんですけど……なんだここ読みにくいな。
さらっとラインの境遇にも触れられます。
『テュミルにとって、グレイは世間知らずの王子のままだった。』のくだりは、もうしわけない、詳細は『銀色乙女のタランテラ』で読んでもらえます。
81pでのミルの吐露が、言葉足らずだったんだなあ、反省。
219pで、「侮らないでよね!」と口癖を引っ張ってきて茶化そうとするのがいじらしいです。

でもせっかくのいい空気が、怒号で台無し。もー。
後半へ続く。

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