1-1-7です。1-1もここで一区切り。グレイの一日が終わるお話でもあります。
※飲酒シーンがありますが、この世界では16歳の成人を迎えたら法律的には問題なく、そもそも衛生的な観点からワイン水もポピュラーな飲料水ですのでなんとなくみんなアルコールを飲んでいます。読者の皆さんのなかに未成年者がいらっしゃったら、日本の法律を守って飲酒してくださいね。アルコールパッチテストも忘れずに。
フィンランド留学時代、友人の家に招かれたとき、テレビはあってもほとんどつけず、飲み物とお菓子、それから大きな蝋燭を載せた机を囲んで、会話を楽しんだものです。それはとても静かな時間で、充実していました。
自分のアパート――日本人のピアニストで親友と暮らす部屋は打って変わって、うるさかった。私たちが恋愛映画を見てきゃあきゃあ言っていたからではなく、上の階でドラッグパーティーが毎日開催されていたからです。音楽も足音もうるさくてほんと、眠れなかった……。外国人留学生は節度ってものを知らねえんだ。深夜2時に扉をドコドコ叩くな。階を間違えてる。
そんな私も、フィンランド人学生とは違う時間帯――深夜に大学へ行っては練習をしていたので、人のことはとても言えませんが。
相手の言葉を真摯に受け止められる時間、そんな静謐を、夜は持っています。
セルゲイやミルが、大人の時間といわんばかりにしっとりとした空気を発しているのはそのためです。夜の闇、蝋燭の揺れる火影にセンチメンタルとメランコリィを感じるのは、あなたもきっと同じはず。
そして、グレイを連れ出した計画の本筋が、ミルによって明かされます。
グレイがかっこつけて「俺の部屋に行こうか?」とか言うの、ほんと恥ずかしいわね。
さらにセルゲイがのっかって、彼の女性経験についてまで言及するのは野暮ったらないのです。私の主義としては、書かないのがベストなのですが、セルゲイーーしかも酔っぱらったくそぢぢいだったら、絶対言う。だから、そのキャラクタ性を優先しました。現代ならセクハラだぞ。
ミルちゃんがとつとつと語る王家への敬愛と、リンデン伯爵への恨み、そして行動を起こさない少年王へのじりじりとした焦りと憤り。
グレイがいままで、うっすらと意識しながら無視してきたものの全てで、両頬をビンタされるような追及に、グレイもたまらず本音を零します。
言ってしまえば、実行せねばならないという考えを持った、正義の塊であるグレイだからこそ、これまで言えずにいたものともいえます。
ここで、するっとさらっと、国の仕組みと旅の目的が語られます。
ああ、そうなんだなあ。
グレイの心を突き動かしたのは誰でもなく、ミルちゃんなのです。
出会ったばかりなのに、いや、出会ったばかりの異物同士だからこそ、心の距離感を図りあえずに思いきりぶつかり合ったのかもしれません。
で、最後のやりとりの英訳をおいときます。
"See,I'm a Guest."
"A Guest worker,aren't you?"
The girl grinning to lean on handrail.
"OK, be my guest, your majesty."
最初に、こっちを思いつきました。
1巻の最後のほうで出てくるリシュナとシアのやりとり――It's my Jobのくだりも英語で出てきました。これについては該当箇所でお話ししますね。
「ノミとシラミ」の一節で、家人が吠えたのをよく覚えています。
「アーミュちゃんの用意してくれたふかふかのおふとんにノミとシラミがいるわけないだろう!」って。まあまあ、どうどう。農場だもの、いるかもしれないでしょ。いる方が自然なの。
でもアーミュががんばってくれたから、いなそうだったの。干し草のベッドマットは、本当に裏表を天日で干して湿気をとらないと虫がすぐわくんですってね。つまり彼の為によく干して、よく叩いてある、とってもすてきなお布団なのです。
さ。1-1-3あたりでは「俺もあのとき……」とか言っていた〈傀儡の少年王〉は、自分の心臓を革命に捧げると、やっと決意しました。それまで気持ちだけでは、したい、したいと言っていたのが、もう行動せねばならない段階にまで来てしまった。しかも、美少女に導かれるという成り行きに身を任せた結果です。
旅に出て初めて、自分の置かれている立場や世界が、ふっと輪郭づいたんでしょうね。
決断に伴う責任を、やがて彼は知ることになります。
1-1-7、おわり。
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