2019年6月6日木曜日

〈制作秘話第十三回〉1-2-4

大事なことはすべて小説の中に入れ込んであるので、解説することもあんまりなくなってきました。
スキュラ、というか、人が賑やかにしている街の曲のつもりで書きました。
1-2-3あたりで、小高い丘に立ったぐらいから流れるんじゃないでしょうか。
ピッツィカートでうきうき弾み、ヴァイオリンが自由闊達にしている次に、オーボエで愛のテーマが流れる、という感じです。今ならもうちょっと洗練させられるような気がしますが……まあ、一日クオリティですよね、そこはね。

1-2-4です。
筋肉痛の下りを端的に省略することに成功しています。
あやしい商人がぽつりと零した独り言が追い風の仕業で耳に届く、という表現は、ちょっとおしゃれですね。いえい。

〈黒龍丸〉についてはいろいろ研究と考察を重ねた部分だったと、思い出します。
当初はティークリッパーぐらいかなと思っていたのですが、三本マストのシップ――しかもフルリグド・シップでいいんじゃないかと思いました。大砲を持つ武装商船でもあります。
結局、インディアマンGotheborgをモデルにしました。
https://www.gotheborg.com/
全編英語ですが、センテンスが短いやさしい文章ばかりなので、読みやすいですよ。高校一年生レベルじゃないでしょうか。写真も豊富で、大砲の上に板をおいてテーブルにする様などは多いに参考にさせていただきました。もちろん、就業形態もね。知ってる食べ物が出てきて驚くかもしれませんよ。
〈黒龍丸〉の乗組員のシフトも作りました。
クルーは朝・昼・夜で順番に寝たり起きたりを繰り返し、船長・副船長はつねに現場監督として責任を負うため、クルーとはずれた一日を送ります。それもあって、シグルドは出航早々に寝るんですよ。

さて、みなさんは船に乗ったことはおありですか?
私はとっても快適なバルト海クルーズしかしたことがありません。
そんな客船だとしても、揺れるし、甲板に出ればめっちゃうるさいのです。
外海だったら、この比ではないでしょうね。

グレイの船旅が始まりました。
やっぱり隣にいるミルちゃんのことが気になって仕方がない様子。
「いちいち色気づくことないでしょ!」と目くじらを立てる女性がいたら、苦言をひとつ。
突然自分のパートナーを名乗り上げてくれて、協力してくれる。いちいち癇に障ることを言うくせに、からかうときの笑顔が輝いている。何もかも抑圧し、されてきた自分とは正反対、自由にのびのびと感情表現をする。透明な珍しい色彩に加え、黙っていれば作り物のように整っている。
そんな見目麗しい異性がいつも近くにいたら、意識しちゃうのも無理はないでしょう。そもそも、18歳の男子ですよ。女の子に興味はあります。あるんだってば。

ウミネコからかいは、浜辺の人ならだれでもやったことがあるはずです。
わたしはリスや小鳥に餌があるふりをしてがっかりさせてやってけたけた笑っていましたけれど。とってもかわいいんですよ。でも、日本でやってはいけません。

それたそれた。
この辺りは、なんだかちょいちょい〈黒龍丸〉や船旅のティップスがわかります。
船のってゴー、では済まない時代です。普通に転覆――死が隣り合わせなのが航海ですから、乗組員も客も、何が何だかわかっていないと話にならないのです。
グレイが無知(未経験)なこともあり、物知りのみんなが口々に教えてくれるのがとても親切です。ただ、ミルちゃんだけは皮肉たっぷりですが。それが会話のきっかけや推進力になっているのにグレイが気付くのは、もうちょっと先みたいです。

一方ルヴァですが、どうやら「ちび船長」のあだ名で乗組員から親しまれ、頼られているようです。あやしい荷物はそのまま。パレット組めないとずれやすくなるからホントやめてほしいよね。ルヴァの説明がおもいっきり口語で、しかも意味がとりやすいのは気に入っています。

私の小説にはお食事のシーンが幾度となく登場しますが、匂いや触感、舌触りなどを克明に描写しているためか、読んでいるとお腹がすくという評判があります。作れるものもあるので、たまに家で自作することもあります。食事は、人間や生き物が生きる上に欠かせないものであり、喜びです。食べる幸せを「口福」と書く人もいるぐらい。物語を生きるグレイたちも人間です。だからきっと、同じ幸せと同じ不幸を感じているはずです。
そのために、三大欲求についてはとことん、突き詰めて見つめています。
ひもじさに頭と腹を痛め、体の芯で燻る欲求を押さえ――若さゆえに性欲と判別できないことも含めて――、眠たさと危険の合間でうとうと舟をこぐ。安全な家を持たぬ旅だからこそ、生命維持のために三大欲求は否が応でも表面化してくるはずです。文化的な生活、思考というのは、そうした三大欲求を満たした上でようやく成立してくるものでもあります。これこそが「学びを深める環境」そのものでしょう。

ロップのテーマ「三角帽子のコロポルカ」は作曲しはじめて三つ目とかそれくらいだったと思います。
絵は元相方のものですので、投稿しなおすべきだなと思っています。

ところで1-2-4、めっちゃ説明すること多いぞ。

ロップの登場で、通貨システムについて言及されています。
1クローネ銀貨10円ぐらいで考えてください。
1エーレ銅貨で10銭。
ヴァニアスのダブル・ローズ金貨は別名スヴェリン金貨ともいわれ、一枚で5クローネの価値が保証されています。
スヴェリン金貨は現国王グラジルアスの横顔レリーフになっています。

乗組員たちのヤンキー具合ですが、肌感覚のリアルさで書いています。読んだ感じ、嘘っぽくないはずです。
下卑たことを言うおいたんというのはどこにでもいて、面白半分のからかいで幼いプリンセスの乙女心を踏みにじったりするのです。腹が立つほど、その場限りの気分屋発言。田舎出身なのがもろばれですが、人生、何が役に立つかわからんのです。
豆知識ですが、そういうデリカシーのない人間(男女関係なかったりします!)には、素直に「ひどい!」「傷ついた!」と直接言ったほうがいいです。「どうしてそんなこというの!」と反語表現では追及できないのです。なぜなら、彼らには相手がどう思うかなんて言う想像力が欠如しているのですから。

そうこうしているうちに、グレイの三半規管が壊れました。
こういうとき、いっそ吐けたら楽なんですよねー。
でもなかなか出てこなくて、内臓が張り詰めているままなのがとってもつらい。
嘔吐恐怖症がある方には地獄のような2ページだったかと思います、ごめんなさい。
でも、木造船でグロッキーにならないほうが、不自然でしょう。だから。

創作の中で、自然・不自然、いろいろあると思うのですが、私の中では「一言で片がつく」かつ「納得がいく」ものを自然、と表現しています。
「納得できないこと」を不自然に感じるのです。
だから、不可思議をいろいろと理由をつけて納得させようとするのではなく、不可思議であろうと一言で「そうなんだ」を導けるようなバランスをとっています。
これって実は単純で、「わからない」ことを「わからない」と言うのと同じなんです。
「わからない」ものを「わかったふう」にしていることこそ、滑稽なものはないでしょう。恥の上塗りというのもありますが、知ったかぶりをしたところでそれは栄誉にも勲章にもならず、ただ無知をさらすだけで、せっかくの学びの機会を損じることになるだけなのです。
知るは一時の恥、知らぬは一生の恥。
たとえ間違ったり、誤った知識を信じ込んでいたとしても、その場で訂正していける人間になりたいですね。
もちろん、常に学びのアンテナは立てながら。

あ。幽霊? 子どもの声?
そう思ってベランダに出たら、すぐそばで猫がけん制しあってました。
そんなこともあります。そんなことも。

1-2-4、おわり。

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