2019年6月5日水曜日

〈製作秘話第十二回〉1-2-3

みなさんは、行軍とかしたことありますか?
私は荷物なしで20kmを休みなく歩き続ける行事に三年間強制参加させられた経験があります。マラソン大会ではありませんけれども。
一年目は走ってみたり、歩いてみたり。けれども走った後の消耗がひどくて、結局徒歩でとぼとぼ、ゴールしました。
二年目は極力走ってみようと思いましたが前年と変わらず。
三年目は、身長と歩幅が近しい友人と結託して、常に一定の早さをキープしながら攻略しました。早歩きし続けるだけでも、脚は棒きれみたく痛くなります。運動部の子たちは部活のメンバーと競い合うようにして軽やかに走り去っていきました。

初めて自分の脚で旅をすることになったグレイも、例に漏れず歩くテンポをまったく管理できなかったようです。
石畳の街道は凹凸に富んでいて、山道や獣道のように、ふわりとかかとを受け止めてくれはしません。新しいブーツのかかとも重たくて、関節にまで衝撃が響いてくるはずです。
一方で旅慣れたミルちゃんはローコストを心がけている様子。
スキュラに着いた二人を乱暴に撫でていく潮風の薫風に、白銀の髪がたなびき、横顔が青空にくっきりと浮かび上がって。
ダブルで絶景です。うらやましいぞ、グレイ。

端から見ればいちゃつく二人を見つけた少年が、驚きに声を上げます。
ルヴァの登場です。
ちょっと食えない少年は、初対面のグレイに結構馴れ馴れしく話しかけたり、問いかけたりしています。グレイの正体には気づかないまでも、彼のカリスマ性をいち早く嗅ぎつけちゃったりして。
出会ったときから弟分精神でいっぱいです。本当にそれで大丈夫かね、と不安になる人も少なくなさそう。14歳、このころはやっと自分が男になるんだと気づき始めるかどうかですから。自分自身に無自覚でもあり、とても危なっかしいと思いながら見つめています。

私はそれなりに旅をしてきた方だと思います。
はじめての街並みでは、五感が研ぎ澄まされます。
わくわくする気持ちに視界が彩りに満ちて、耳はすべての言葉を拾い、あらゆる匂いが映像に刻み込まれて、靴越しに大地をつかむ指が段差に戸惑ったりします。
約束のカフェではミルと再会し、ドーガスと出会います。
不思議な包容力に満ちた男はどうやらミルちゃんの何か、みたいです。

そして、ルヴァの口からヴァニアス王国の神秘の象徴であるワニア民族の話が出てきます。それにまつわる不審な話も、ちらほら。どうやらグレイが知っている以上に物騒な世の中になっているみたいです。
「全部あいつが悪いのよ」
を曲解するルヴァの言動が、国民を代表する王室への不信感そのものになっています。

ドーガスがちょいちょい茶々を入れたり、二人を和ませようとしてくれているのは大人の余裕でしょうね。それか、かわいいミルちゃんが意識しているさまを観てにやにやしているというか。
体術の得意なグレイですが、ドーガスはそれをあっさりと上回ってしまった様子。
底知れぬ男です。「味方でよかった」タイプの人間をことごとく仲間にしているグレイは、恵まれた人間ーー持てる者なのでしょう。
それは持たざる者からどう見えているのか、彼はまだ知らないのです。

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