2018年11月25日のCOMITIA126から、新刊『黒獅子物語』第二巻の行商を続けてきました。
年もまたいだ1月20日関西コミティア54で、それも一区切りです。
大切な人の手元に行き渡ったころだとふんで、
理由を挟んで、あとがきのようなものを書きたいと思います。
~~あとがきを本誌に載せない理由~~
これはたったひとつ、「あとがきを読まれないため」です。
同人誌即売会にて展示した際、どんなに作り込んでいても
いろんな人があとがきから読むのです。嬉しくない。
これすなわち、手品のタネをさきに見に行くようなものではありませんか。
冒頭に血のにじむような努力をしているのがすべて無駄になりかねません。
なので、蛇足たるあとがきを本誌から撤廃しました。以上
あとがきのようなもの
この度は『〈黒獅子物語2〉清らなる神子姫』をお求めいただき、誠にありがとうございます。グレイの冒険が始まった第一巻は、爽やかなはつらつとしたボーイミーツガールでしたから、この二巻の展開と引きには驚かれたことと思います。はらはらする気持ちを、そのまま第三巻の期待としてお持ちいただけたら嬉しいです。
旧版のことを引き合いに出せないほど、すべてが新しくなっているなかで、とりわけリンデン伯爵の人物像を大切にしました。
悪が悪に見えぬほどの温厚な人柄や信頼の厚さなど、政治手腕に優れた人間でありますが、人間的には見通しのきかない部分の多い、食えぬ男。味方となれば心強く、敵ならば難攻不落。愛の対極に位置するであろう、とても難しい男です。しかしその実、血を分けた息子アレクセイを溺愛してもいます。早世した妻を愛していたかは不明ですが、血縁者には並々ならぬ思いを抱いているようです。リンデン伯爵がいかにして魔術を手に入れたかは、きっとそのうちさらりとどこかに挟まった一文で明らかになることでしょう。そういうこと、多いです。たった一言に秘密のすべて、謎の答えが詰まっていたりします。目を皿にして読み返してみてくださいね。
さて、ここからはお待ちかね、音楽の話です。
第二巻には、たくさんのリュート歌曲があらわれますが、たったひとつ――ファリーがルヴァとリシュナをテーマに作った『清らなる神子姫』を除くすべての楽曲が実在しているものです。
十六世紀にダウランドにより作曲されたもので、著作権は大丈夫。
歌詞(=英語です)はすべて私が翻訳してありますから、そこんところも大丈夫。
押韻も残し、単語そのものの意味する韻も踏んだこだわりの訳ですが、掘り下げると英語の授業になるのでやめておきます。そういうのは人にきいたってつまらないし、なにより、自分で調べがつくはずですからね。
では、安心しながら、楽曲を聞いてみてくださいね。
※ページ数は二巻に対応しています。
28p あなたは見たか、白百合輝き咲くところ
Have you seen, the bright lily grow
https://www.youtube.com/watch?v=SeITdXplKF4
(bright がwhiteになってますが、些細なこと、楽譜の版違いと思われます。
それよりも、彼のビロードのように滑らかなカウンターテナーと
自由闊達な超絶技巧をお楽しみください)
298p 戻っておいで!
Come again
https://www.youtube.com/watch?v=Qgr65P-rr_4
(ダウランドのリュート歌曲は女性向けの音域に設定されている中、
若々しいハイバリトンの演奏になります。
もしも夜に窓辺で歌われたらたちまち心を奪われてしまうような
実直でスイートな喉の持ち主ですね)
そういえばいろいろと音楽が鳴っているシーンがあったことを思い出したのですが、民衆の音楽はだいたいがルネッサンス音楽だとおもっていただけたら、すぐにイメージがつくと思います。宮廷舞曲については、フランス風でもスペイン風でも、いずれも典雅で素敵ですけれども、足譜を考えるとフランス風のほうがやさしいかもしれません。このフランス風楽曲にあわせて踊るダンスのことをバロックバレエと呼ぶのですが、現代に「バレエ」と呼ばれているものとは全くの別物であることを留意しておいてくださいね。今、われわれが「バレエ」と呼んでいるものは「バレエ・リュス(ロシアバレエ団)」が公演してまわった新しいものなのですから。
毎度好評の食事シーンですが、大概がご自宅で作っていただけるイージーなレシピばかりですから、どうぞ作ってみてください。ポイントはクロスグリやコケモモのソース……そう甘酸っぱいアレと、味がするんだかしないんだか、でもないと絶対にものたりないブラウンソースです。日本人はあんまり好きじゃないみたいですが、大陸のDNAなのか、酸っぱい食べ物やこっくりした味わいの食べ物があちらではよく食べられます。私は大好きです。
さて、いろいろと蛇足がにょきにょきと伸びました。
しっかりと精緻に整えた物語の中に、こんなふうに私情にまみれたものなんて挟みたくないのが、お判りいただけたと思います。作者近況なんてもってのほかです。誰も私本人には興味がないはずですからね。
追記
ダウランドの作品はWhite az lilies waz her faceで
Have you seen the bright lily grow? はジョンソンでした。
おはずかしい。
謹んで訂正いたします。