2019年5月31日金曜日

〈制作秘話第七回〉1-1-5

1-1-5、場面は変わり、地上のソーン城。
視点はミラーに固定されています。
男ばかりの騎士の城で、小柄な美少女は目立つ、目立つ。
ミラー自身はそのまなざしに居心地の悪さを感じて萎縮していますが、それが憧れからくるものだとは理解していないみたいです。自分が美人であるとも。

ソーン城のイメージは、実際に歩いたオックスフォード大学。
映画ハリーポッターのロケ地で、アリス・リデルが遊び場にした場所、そして優秀な学生を育てる学び舎として有名な、あそこです。行きました。その日は高熱を出していたのですが、どうしても行きたくて。
古くからあるティールームでクリームティーもしたし、昔からの音楽ショップで楽譜も文献も仕入れて、ああ、本当にやり切った日でした。

それで、ミラーですけども。
状況と内情の両面を教えてくれつつ、おぢさんたちから可愛がられ、突然面倒を押し付けられる。そういう役割を担っている日常が、突然変わってしまうわけですが……。
全くの新顔、シアを迎えるここでは、ラインとミラーの人格と関係性が見えてきますね。
二人はすでに四年の付き合いがあって、ある程度省略した物言いをしあいます。
それゆえにラインがどうともとれる発言をしたりするんですけれど。
ちょっとしたショックで、ふらりときたミラーを抱き留めるのも、お手のものですよ。

『愛し子に鞭打たんとして、獅子の子を落としにけり』
これは故事成語からきています。

獅子は、子を生むとその子を深い谷に投げ落とし、よじ登って来た強い子だけを育てるという言い伝えから》自分の子に苦難の道を歩ませ、その器量を試すことのたとえ
https://kotobank.jp/word/%E7%8D%85%E5%AD%90%E3%81%AE%E5%AD%90%E8%90%BD%E3%81%A8%E3%81%97-518983

いきなりじゃわからんと思いますので「いとし子に鞭打たんとして」を付け加えました。
格言、故事成語、ことわざ。そういうものは、どんな文明の世界にも温故知新、存在するものとして扱っています。言った人が違うだけで、ね。

まあ、そういうことで、言葉を額面通り受け取るラインと、知恵者のミラーのやり取りで、セルゲイの手紙を解説してくれます。優しい。

ちょびの面会は、いいかな。
まあ本人に会わなければね、納得は行かないわよね。
だって5年前はやんちゃ坊主だったんだから、グレイは。

そして二人の腹心は、不思議なシアをグレイに据えてお城でお留守番となりました。
だって二人とも強いんだもん。
1-1-5、おわり。

2019年5月30日木曜日

〈制作秘話第六回〉1-1-4後半

謎多き美少女に導かれ、あまつさえ信じ、「なんか臭いし、暗いし、寒いし、こんなところ早く出ましょ」と言われてしまうような地下水路にやってきた少年王グレイ。
1-1-4後半です。

マジカルな話がここでやっと出てきます。
ミルが使う魔術書、魔術は人為的に魔法現象を呼び起こすので魔術Magick、
ルヴァやリシュナのように、その血に魔法を扱う能力を宿すものが魔法現象を引き起こすのが魔法Magicという風に、実は綴りからして意味が違ったりします。

センス・オブ・ワンダーを第六感とするなら、第七感が魔法、というのが私の考えです。
この第七感は、自然に存在するマナを言葉や念やらでぎゅっと集めて収縮させて現象として発現させるもの、というふうにしています。結局、詠唱も精神集中のためのツールでしかないので、一般人が唱えたところで魔法は伴わないのです。
ただ、魔術書という媒介があれば話は別なのです。
術者の念がなんらかの形――写字であったり、枕にして眠ったり――で宿っているのを利用して、魔術を発動させることができます。

それから、ワニアや魔術師が使う言語は、私が作りました。
フィンランド語の原語は3000語しかない、という話を聞いて、ああ、人間が意思疎通に必要なプリミティブな言葉ってそれだけあれば十分なのね、と思って、自宅から空港へ行くバスの中の一時間ぐらいでざざーっと考えました。
語幹はラテン語、名刺化はフィンランド味、語尾や格変化もフィンランド味にしてありますので、missa mista mihin がわかる方なら意味するところがたちどころにわかる仕組みになっています。その文がどんな構文なのか一発で解る、アイルランド語の味もいれてあります。いずれも日本語と対応した教科書が少ないんですけどね、てへ。
だから、アルファベットでみれば文法がわかりやすいんですよ。
ちなみに初出は『探偵王子とフォルトゥーネ』です。

小説のほうに戻ります。
グレイとミルが、お互いの情報を小出しにして様子を窺いあってます。
そう、常識に差異があると情報共有はいとも簡単に、手短にできるのです。
〈ヴァニアスの神子〉という神秘の存在や
「この件こそ、門外不出だ。」
と、グレイの秘密についてのフラグも、ここで立ててありますね。
でっかい鼠さんとか、げっ歯類なんて怖いと思うのですが、よくぞ対処の一言で片づけた、グレイよ。
通常バトル曲です。エレキがダサいのごめんなさい。

そして暗いのが怖いミルちゃん。
私が7歳の時の、TDLでのシンデレラ城ミステリーツアーの記憶と重なるんだなあ、とふと思います。そのあとも欧州で城塞都市の地下やらなんやら、いくんですけども。それにしてもあのときの、先の見えない恐ろしさと言ったら、なかったです。
ヴィランたちが呪詛を吐きつけてくるし、勇者はもういないとかいうし。
暗くて、空気がとっても冷たくて、白い光が一つも差さなくて。
私や、そのとき手をぎゅっと握っていた父にはいまや美しくて微笑ましい思い出ですが、思い出せば7歳のときのあの心持ちはありありと蘇ります。
でも、小説を書いているときには、自分の記憶と感情を、物語や登場人物に重ねたりはしません。
絶対にです。
重ねるとするならばそれは、匂いだったり肌感覚であったり、光や色、音、その場所でしかありません。「こういう場所なら、きっとこうだわ」というシミュレーションだと言えば、伝わるでしょうか。
だから、ミステリーツアーのお話は、私だけのもの。
ミルちゃんがどうして暗いのが怖いのかは、これから明らかになっていくことでしょう。

でかカエルさんの登場です。
私、カタツムリは大好きで、いくらでも巨大化してくれて構わないんですけど、カエルさんは小さいほうが好きなんですよね。
それはグレイも同じだったみたいです。
剣を構えて少し落ち着く、でも顔は強張ったまま、っていうのがリアルな緊張感ですよね。
武器――私にとっては楽器だったり、ペンだったりですが――を手にしている時間が長くなればなるほど、持っててもお守りにはならなくて、むしろ自分の髪の毛みたいに拡張された自分の体になります。
そういう点では、やっぱりまだまだ、ラインには敵わないんだね、グレイ。
素の文でさんざん名前を呼び散らかしているのであんまり感慨深くなくなっちゃったんですけど、ミルちゃんが5年ぶりに「グレイ」って呼んでくれるの、ウインクのおまけつきで。気持ちが暖かくなりますね。

戦意のないカエルさんはお食事中です。
蜂とかもそうですけど、自然の生き物が人間を敵視するときって、命が脅かされたときだけなんですよね。だから、そうじゃないときにエンカウントしたところで、警戒もしくは放置ぐらいがリアルなんじゃないかな、って思います。相手が肉食で、かつハラペコでないかぎりはね。
ボス戦曲です。
シャンシャンドコドコうるさいです。
あと毎度絵が古くて死ぬ。
BメロのエレピはグレイのテーマのBメロを移調してあります。
決意や勇気のテーマにあたります。
Cメロ(三拍子になるところ)はOP曲を圧縮した変奏です。
つづくD部分は、運命のテーマ「君影草」というモチーフです。
君影草とは、スズランのことで、「君影草」は〈彼女〉のテーマになります。
君影草のオブリガードにはOP曲BloodySnowのテーマが。
私一人が胸アツな感じですが、共有出来たら嬉しいです。

さて、カエルバトルの最中、やっと「ミル」の愛称が提示されます。
それまでお互いきっかけがなかったのね、うんうん。
「ねえ、ちょっと抱いてくれない?」
は半ば義務のようにやりたかったお色気一言だったりします。
というか、トドメ?
一年たって、グレイがふつうに庇えばよかったんじゃ、とも思います。
でもそれじゃあなあ、グレイが心配して怒鳴るだけじゃんね。
かといって男を突き飛ばす腕力なんてミルちゃんには無いし、やっぱり体重をかけて体ごと押し倒す(水路へ)しかないよね。
と、いうところで、ボス戦は終わったのでした。
置手紙というアウフタクトをのこして。
1-1-4おわり。

〈制作秘話第五回〉1-1-4前半

ブラッキーライオンについて説明しよう!(wow wow wowらーいおーんず
Blackyという言葉には、黒っぽいという以外にも怒り心頭みたいなニュアンスもあるのです。
それから、イギリスにはエドワード黒太子という黒鉄の鎧で戦った王子もいました。
そんなこんなで、獅子がごとくたてがみをたなびかせ、勇猛果敢なる黒き国王、黒獅子という言葉ができました。
かっちょいいじゃろ?
英語での掛詞は今後も出てきますので、どんな意味なのかしらと辞書を引いてみるのもまた一興ですよ。

ということで、1-1-4です。ここらへんは書きやすかった。
ミルちゃんという自分と正反対の異物を目前にしたグレイの反応をつぶさに観察して書いてあげるだけの楽しいお仕事でした。
ちゅことで、ミルちゃんのテーマ
絵が古い!
この曲もちゃんとアコギで録りなおしたいです。
お気に入りの一曲の一つです。
サビの裏で大きく流れている裏メロディ(オブリガードといいます)は、実はグレイのテーマだったりします。ひえっへへへ。萌えて(2回目)。

ゆうてこの若獅子グレイちゃん、等身大の女の子なんてほとんど初めてですから、ミルちゃんのコケティッシュさとお誘いに戸惑うのも当たり前です。意識しちゃって。
でもね、美少女って生き物はずるくって、何がずるいって、自分がどうしたら魅力的に見えるのか、ほとんど無意識に理解しつつしていないんですよ。だから自然に可愛い仕草とかしちゃうの。くるんと巻いて気まぐれにはねている髪の毛の毛先まで可愛いんだよ!くっ!

作っている仕草については物語が進めばたくさん出てくるからよいとして。
グレイの演技――ハイバリトンの上澄みを取り出したり、話についていけないで困って見せたり、自信や考えの芯のないさまは、ここでだいたい見納めです。だいたい。
〈傀儡の少年王〉はこのとき、半分はグレイそのものだったのです。
ひとりぼっちである自覚と自己憐憫と、先の見えない地道な戦い。
明るい未来なんて見えない状況です。
心の中で怒りを燃やす反面、それを燻らせている己への苛立ちと嫌悪があったり。
清廉潔白な男なので、そういうことを並べ立てて口を汚すような真似はしませんけれどもね。

荷物が重たくなるの、あるある。
革鞄というだけでも重たいのに、って私なら思うんですけども。
旅慣れぬ人のスーツケースってとっても大きくて、しかも中には使わないものばっかり入っていたりします。
グレイもその例にもれなかったんじゃないでしょうか。
でもまあ、入れる物すらよくわかっていなくて、あとで買い足していそうです。
手ぬぐいみたいな清潔な布があれば、あとあと足に豆ができたとか、出血したとか、そういうときに役立つんですけどね。なんていうか、お袋の知恵、庶民のコツみたいなものはまだまだ。ぼんぼんってことです。

そして初めての冒険は、自分の城の地下だったのです。
この曲は最初期に手癖で弾きながら作ったのですが、お気に入りです。
なんかキリがいいからここまでにしよう。1-1-4、後半へ続く。

2019年5月29日水曜日

〈制作秘話第四回〉1-1-3

一人になると、肩ひじ張っていたものがすうっと抜け落ちて、でろーんとなりますよね。
グレイも同じだったみたいです。
一人きりで見送る夕焼け空こそ、わびしいものはなけれ。
この昼と夜の交わる薄紫色は、とってもミステリアス。
既に示唆されている……されているのです……。
ああ、あのピンクとも水色ともつかない、幽玄で透明な淡い紫色ね。
とあなたが想像できたら、こっちのもの。
そして突然現れるのです。
おなじ色をした瞳を持つ、とびっきり顔の整った女の子が!

……なんて未来がくるなどとは思わず、グレイちゃんはいじけてお布団にゴロン。
彼を抱きしめてくれるような人間はもういないので、自分で腕をさすってあげることしかできない。ちょっとおセンチ。

そして暖炉で爆発音ですよ。
暖炉が夏休みをもらっているの、ちょっとスキ。
そういえばおととい、家の炬燵に夏休みをあげました。
エアコンはそろそろ春休みから復活だ。こきつかってやる。

「嘘でしょ!」の一声で、女の子だ!ってわかるの、いいよね、いい。よくやった、えらい。
そんな感じで急いで暖炉から転がり出てきたミルちゃんですが、そう、暗いところが怖いのによく一人で来たよね。グレイのところに行くんだって、一人で来たのね。もうやだ。なんかニヤニヤしちゃいませんか。この理由の一つは『銀色乙女のタランテラ』の最後で明かされているわけで、本編でも〈インキ・マリ〉とかでほんのちょっというぐらいなんですけど。ただの勇気だけじゃないよね、きっとね。好きか嫌いかでいうと好きだよね。恋になるかは知らないけど。知らないけど!!!
さっきまで「あのとき、俺も……」とか言ってた男に「死にたくないでしょ?」って見開きで対応して気分を切り替えさせてしまうミルちゃんって、すごいヒロイン力。

ゲームだったらチュートリアルバトルになるだろう(まだ言ってる。これからも言う)トカゲバトル、トカゲちゃんを調べているうちにちょっとかわいそうになって、殺さずにおこうと思ったんです。結構怖がりさんなんですってね。それが図らずも、グレイの信念の一つ「不殺」に一致したわけですが。

それにしてもいちいちミルちゃんが先輩風吹かせている。ふてえ女です。
でも、グレイとってはほとんど初めての「普通の女の子」なので、これぐらい自分勝手でわがままで、お転婆でじゃじゃ馬で、自尊心がちゃんとある女の子でなくてはならないのです。
4年間のテュミルの冒険が、彼女をそんな風に強くたくましく育てたんですから。
それに、これぐらい肝が据わってないと、国を取り返そうとするグレイのバディになんかなれっこないわよ。
でしょ。

そのあとの急接近は、きちんとドキドキしてもらえたでしょうか。
こんな落書きもしてましたわ。
かわいいよねーミルちゃんって。
読めないしはぐらかすし。
たまんねーなー。
と、いうところでミルちゃん登場の1-1-3はおしまい。

〈制作秘話第三回〉1-1-2

あたまぐしゃぐしゃーっ! でグレイちゃんの本性発現。
マントと仮面となよなよボイスと愚痴を一緒くたに床にバーンする一節もよく書けてると自画自賛だったりします。おらこなくそー!って。
1-1-2では、実はグレイよりもラインとミラーがどんな奴か、っていうのがクローズアップされています。
天然のラインが、彼なりに頑張ってなんか言ってる(この言い草である)のをグレイがむぎゅーっていじめたり、真面目のミラーが健気で優しくて可愛がらずにいられないのを撫でたり。
そんなミラーのテーマがこれ。
鍵盤楽器が上手なグレイが、ミラーをイメージしながら即興演奏した、そういうイメージで私が即興演奏して作った曲です。Cの部分で聞こえてくるグロッケンのメロディは、ラインのテーマからの引用ですよ。萌えて。
ちなみに私は絵が古くて死にかけている。

今はこの二人が――あとぢぢいも――グレイの近しい存在、家族なんだというお話です。
すうっと日が陰るなり、なんだか寂しくて冷たい風が吹いて。
密室に吹いた隙間風は、そう、フラグです。ホホホ。

家族の肖像画、そういや『少年王のジレンマ』が手元になければわからんのでした。
これがそうです。
2015年の絵だ!
うわあ!描きなおしたい!助けて!
ラインとミラーが出会って、なんやかんや、一緒に若を支えて行こうね、ってなる『少年王のジレンマ』は現在廃刊中ですが、黒獅子物語が完結したら補完のために大幅改定・加筆修正を行って本にしたいつもりがあります。
ということで、1-1-2、おわり。

〈制作秘話第二回〉1-1-1

制作秘話、第二回です。
まずはこれでしょう!

Bloody Snowは「大雪」の意味があります。
幼少時、堆積された雪の層を見た私がそこに日々の歴史を感じ、やがて地層にさえ愛着を持つわけです。
北極や南極の氷は本当に雪が堆積し圧縮されたものであり、当時――数万年前の大気の塵を抱いて降り注いだので、圧雪にも歴史あり、私はそう思います。
この曲は、もしもゲームを作るならシリーズのOP用曲として作りました。
NEW GAME
CONTINU
OPTION
って脳内でボタン作っといてください。

楽曲解説をすると、D調の5音音階でして。
D調の曲というのは教会音楽でのハルレヤを意味する調でもあり、民族音楽でも基本の調だったりします。
だいたいD。
黒獅子物語――グラジルアスの戦いが歴史の彼方に流れて忘れ去られても、この歌だけは残り、母から子へ、歌は歌い継がれる……。
というイメージで、とてもシンプルなつくりにしました。
コーラスはもちろん私だよ! 輪郭に肉声を入れるととってもそれっぽくなるからだよ!

ということでやっと本編さ入るだ。

次にこれだっちゃ。
本編とは。
写真は、私がドイツに行ったときのものです。
かのローマ皇帝の血脈たる一族の城、ホーエンツォレルン城でございます。
音楽皇帝と呼ばれたヨーゼフ二世の師、フルート教育を著した人物であるヨハン・ヨアヒム・クヴァンツ先生の足跡、ヨーゼフ二世が使っていた本物のフルートと楽譜があって、天恵中の天恵でございました。
それとこの日は雪で、そう、突然寒くなった日で、そんななか、山の上にある城を目指してぐるぐると背高な塀の中を登っていった……。懐かしいものです。

楽曲解説します。
B調です。やっすい打ち込みなのでバグパイプが仕事してませんね。
笛は適当にぶっつけで吹きました。エコーがいい仕事してる。シャン。
お城の曲です。ゲームだったら、ケルツェル城でずっと流れます。
会議の後、グレイが行ける場所は限られています。
音楽サロンに行ったら、好きなだけチェンバロが弾けますがあんまりやってるとミラーが迎えに来ます。そんな妄想。

まって物語の話してない。

1-1-1と1-1-2の間には一か月の時間が横たわっています。
カレンダー(捨てちゃったっぽい)にはそう書いてあったと記憶しています。

とにかく、ガルシア・マルケスのような文章の着弾と爆発をさせるために、とてもとても心を割いていました。
旧版では、ゲームの導入のようにグレイ13歳が即位するところから始まっていたのですが、その始まりでは爆発しないんですよ。私はそう考えました。
『純白の抒情詩(以下リューリカ』の墓場スタートは、あれはあれでセンセーショナルだったみたいなんですけども、グレイの場合にはちょっと話が違うので。
爆発させたかったんですよ。こう、何かがすでに始まっているのだと。

それでね、冒頭だから、たくさん情報を開示しなきゃいけないのです。
興味を持ってもらわねばならんのです。
ついでに言うと、ゆくゆくは謎となるものの答えも置かねばならんのです。
主人公がどんな奴か、っていうのは後から分かればいいんです。
主人公が誰か、さえわかれば。

1-1-1は、けっこう好きなフレーズが多いです。
グレイの心情に近い部分で文章を書いたので、散文詩的な書き方がしやすかったんだと思います。
三人称一人称視点を貫いている中で、グレイの瞳が青であることを書くのに、あの一節はとっても優れていたと思います。自分の目が青い(ブルー。ちなみにblue eyesはうかない瞳、憂鬱な視線、という風な言い回しでよく使われます。『煌めき屋』でのロセッティの詩で見つけられますよ。)ってことをよくわかっているからこそ書けたのが、あの一節です。イマジナリーな世界から発した文章だから可能でした。普通はしないかな。だって自分の瞳の色は、鏡が無けりゃわからないでしょ。だから。

思惑まみれの大人たちの中で、お飾りの少年が一人。
愚かならば口を挟み、利口ならば口を噤み、さらに利口なら必要なだけ口を開くでしょう。
このときのグレイは、統治者でありながら、まだ子どもなのですね。
さて、沈黙には観察がつきものです。
グレイも聡明な瞳を濁らせるまでの演技をしながら、口を曲げる偽りの紳士たちからステンドグラスまで、いろんなものを見ています。
わたしは、ステンドグラスについては、ヨーロッパ各地の教会堂でいろんなものを見てきました。
あれは、絵物語なのですよね。
カトリックによるラテン語主義(文語)と文献包囲の歴史の中で、識字力のない民衆は説教とステンドグラスによって聖書の物語を知らされるわけです。
民衆の口語をそのまま文字にしていく運動から、聖書をみんなが読めるようにする運動については、みなさんもうご存知でしょうから割愛させていただきます。

まあ、そういうわけで、ヴァニアスの国会議事堂にも建国の歴史が描かれているわけです。
そうそう、ホーエンツォレルン家もそうですが、エントランスの壁一面に樹形図――誰が誰の子でどの位であるか、という肖像がつらなる物――があるのは名家の証のようです。プロイセン風の、とも付け加えておきましょう。ストックホルムには無かったもの。

いろいろ重要な情報が出てくる部分でもありますが、とにかく説明したくなかったので、みんなに話してもらいました。
説明、みんな嫌いでしょ?
大人のやるまどろっこしいことが嫌だったり、うすらさむがったりするのは、グレイも同じです。
口癖「侮るなよ」が飛び出すのもしかり。

うまくいったなポイントは、さらっとラインとミラーの紹介が済んだこと。
前述のとおり、最初からあんまり言わんでいいの。
あと、ちょびが〈薔薇〉のハンケチでヨヨヨってするところ、必要か不必要かの是非はともかく、〈薔薇〉だぜ、ってことで書きたかったんです。

旧版のちょびはとにかくゲスで、あさましくて、利己主義で、めっちゃくちゃわかりやすい悪役のレッテルを貼られた人間だったのです。
が、かくかくしかじかの色んな手をつかってただの伯爵から宰相の身分へジャンプアップして息子を王女と婚約させるところまできている事実はただの超敏腕政治家。
そんな人がインテリじゃないわけ、ないじゃないですか。
狡猾さをにおわせない狡猾さ、これってサイコですよ、とても頭が切れる男ですよ。
そして品性に欠かない。
エフゲニー・リンデンという男は、洗練された悪なのです。
もちろん、大きな野望のうち、はたせるもの、そうでないものの区別もつきます。
己が立身出世はここまでと思うからこそ、己の血を持つ息子をさらに持ち上げてやろうとする、心意気。めっちゃ政治家やん。

私個人は、素直で、頑固で、研究畑の人間で、政治的な立ち振る舞いは本当に苦手で、逆に上手な先輩や後輩の踏み台にされてきたクチです。
ああいう、嗅覚の優れている人間というのは、他人の幸運を掠めとる機会を虎視眈々と狙い、素早く手を出すのに長けています。
悔しくて歯がゆくて、それで自信を無くしたこともありました。
でも、自分には自分が一番輝く方法――信念を貫く(後でミラーが言ってくれる!レイピアは!己の!信念を!)ことだと、今は思います。
他人の真似したって他人にはなれないし、どうせ真似するなら、もっと素敵なところを勉強したいですね。

と、いうわけで、グレイにとってはリンデン伯爵という男が、そういうライバルなわけです。
1-1-1、おわり。

2019年5月28日火曜日

〈制作秘話第一回〉くろしし一巻表紙の話

気負わず、しかも連載だ、と言い切った昨日の枕元で、真っ先に考えたのはこれ。
「表紙って本の顔よね」
ということで、くろしし制作秘話の第一回は表紙の話にします。

いろんなラフを出力して、そこからいいのを選ぶ、というよりかは、
最初にロゴとサブタイトル、帯というハコがあることを前提に、
レイアウトから決めていくのが私のスタイルです。
ちゅって、その参考画像はないんですけど。

HDDにあったデータを古→新の順番で並べてみました。
「旅立ち」「主人公」「ヒロイン」「王国」などファンタジーだぞ要素を詰め込んだ一枚。最終的にこれが決定ラフになるのでありますが……。
少年漫画とかゲームとかでよくあるやつ。みんなが大好きでやるやつ。私は描くのが苦手なやつですが、がんばって入れ込んでみました。人の顔ばっかりでどんなお話なのか想像する余地がないので、却下。

たらたららくがきしていたものを流用してみようよ作戦。一巻は船のお話なので、船上のようすなんていいよねって。でもやっぱり話が見えないので却下。表紙から物語は始まっているのです。

コミックスの完全版とかでよくある、キャラ単体のやつ。良くも悪くもない。やっぱり話が見えない。

と、いうわけでこちらが決定ラフ。
自分一人だけでやっているので、デザインの良し悪しについて、目が麻痺してくることも多いのですが、優しい仲良しさんが「こっちのがすき」と「ぱっと見」を教えてくれるので、それを信じたり助けにしたりして、デザインを決めたりしています。
特に一巻の帯(真っ赤な背景に筆文字)で、フレエドムの千鳥スズヤさんから「表紙の雰囲気と離れた戦国っぽさが……」とご指摘いただいたのは覿面に効きました。
それで現行のデザインに変えたんです~。
こうして、みんなのしってる表紙になりましたとさ。
レイアウト解説をすると、視線誘導ラインはこの順。
①サブタイ頭→お尻
②グレイの顔
③「黒獅子物語」
④ミルの顔
⑤ミルの胸(絶対大事
⑥帯
という、ロシヤのイの字(Nのさかさまのやつ)で視線誘導しています。
でも、ちょっとあれね、無理矢理感はいなめない。
これは以降、改善されていくことになります。

デザインは、ユーザブル……見る人にぱっと伝わらないとデザインとしての価値を持たないので、だれかの「ぱっと見」意見はとっても参考になります。

小説の顔となる表紙では「この世界」「この人たち」「どんな物語」というイメージを、絵を見たお客さん自身で膨らませてもらわねばならないので、けっこうデザインパワーが必要になってくると思います。ロゴもね。

ロゴも頑張って作った。
M先輩からも好評で「星はしし座なの?」って聞かれたけど、そうじゃないの。
どっちかっていうと、「くろししものがたり」と音読する時の日本語アクセント音節の向き(さくらんぼみたいなやつですよ。しってます?)を意識して配置してます。
あとはね、漢字の画。
そういわれてみると、そうでしょう?

イラスト制作の順番とかは、そこら辺のお絵かきさんとさほど変わりませんので割愛します。
次回は、執筆に一か月を注ぎ込んだ(無駄遣いした)1-1-1についてお話してみたいです。

2019年5月27日月曜日

料理は美味けりゃそれでいい、と思っていたけど

関西コミティア55、ありがとうございました。
快晴の中の快晴、お日様が熱心な参加者を焼いたり蒸したりする中で、会場は本当に熱気に満ちていました! ようこそおこしくださいました。

イベントにお越しくださる方から「作品のお話を聴けて嬉しい」との声を受け、こちらも嬉しい反面「これが……需要……?」と戸惑う自分もいます。ここあです。
思考経路、どんなふうにシミュレートして、この子はこういう子で……。
そんな物語の歴史ともいえる部分を知りたいだなんて、あなたも好きね!
……と思いつつ、私だったら。

例えばふらりと立ち寄ったカフェで、コーヒーだけではカロリー足りないからと頼んだケーキに舌鼓を打てば、「この材料は何かしら」「スポンジの甘さが絶妙だわ」「いちごが高級!」などと作品の成立について思いを馳せたりします。

それと同じ、なのかな。
でも料理している自分をじいっとみられているのは恥ずかしいな。
そこで自分の備忘録も兼ねて「くろしし制作秘話」などという大層なタグを作ってみました。

黒獅子物語の目次どおり、1-1-1から順番に思い出していこうと思います。
そうそう、ここはこの曲なのよ! みたいな自作曲とか、イメージのための音楽とか、そういうのもご紹介出来たら、きっと楽しいですよね。私が。
できるだけ整理し、できるだけざっくばらんに、大層にならないように書きたいと思います。
そうやって連載になったらいいな。
新れんさい。あまりご期待せずに……。

2019年5月17日金曜日

春の東京遠征、ありがとうございました。

こんにちは。
こんばんはのお時間でも随分と明るくなりましたね。
黒井ここあでございます。
原稿を理由にしてしばらく書かずにいたせいで、
ブログでのノリってどうだったかすっかり忘れちゃいました。
なんかキャラを作ってたような、そうじゃないような。
イベントでこんにちはするときのあの感じで書けたらいいなあ。

☆黒獅子物語の三巻が出ました☆

出ました。出せました。
方々に弱音を吐き散らかしながら書き上げました。
学習能力が足りていないの、もろばれ。
きっとブログにまで来て下さったあなたは、裏話とか聞きたいんですよね。
実は、そういうのをお話しするのって苦手で。
裏も表もお話っていうものは全部作品に詰め込んであるので、
「この裏ではね」みたいな隠し土管はないんです。
強いて言えば、本来予定していた表紙絵をばっさり棄てて、現行のを採用した、ぐらいかしら。そんなもんです。

でも、何があったかなぁ。
泣いたスケジュールについて懺悔するぐらいかなぁ。
着手はいつもより早かったんですよね。
12月と1月とで、ずっとこまプロットをいじっていたんです。
一週間で書けるかなぁと思いきや、そんなうまくはいかじ。
カレンダーには、1月30日、3-1-1と書いてあります。
でもここからが長くて、必要な情報が必要なだけ出せているか、
文章が変じゃないか、ずうっともちゃもちゃとこの辺りの数話をいじっていて
結局3-1が終わったのは3月の頭だったわけです。
あとはずっと、「間に合わない、この調子で書いてたら間に合わない」って
泣き言を言いながら毎日お料理と執筆をしていた想い出しかありません。
鹿島もちょうどオフシーズンだったし、気持ちの持って行き方では
家人にかなり頼ってしまいました。
強い気持ち、ホント大事。

☆東京日帰り×2☆

文学フリマ東京とCOMITIAは、ブッキングしちゃいがちな悲しい関係があります。
2019年春は別日程になったのが、ちょっとした奇跡にも感じるくらいです。
一年に一回は顔を出しておきたい、忘れられないでいたい。
そういうわけで、文学フリマ東京とCOMITIAの両日を日帰りで決行しました。
どちらも、ゆるっと繋がっているメイドスキー戦隊の仲間に支えられながら、
楽しい気分で終えることができました。ありがとうございました。
もちろん、ご来場くださった方、本をお持ち帰りいただいた方のお陰でもあります。
分厚くて高い本なのに。ご愛顧くださり、本当に嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。

飛行機でとんぼ返りした両日程ですが、宿泊費を思うとこれがいいのかな。
ちょっとがんばればみんなでご飯も食べられるし。
みんなのご協力の上で、だけど……。

☆メイドスキー戦隊と新メンバー☆

COMITIA128をちょっと早めに切り上げて向かったヴィーナスフォート。
そこではまっぴるまのサバトが行われました。withパンケーキ。
女子会っぽいでしょう!
パンケーキが焼けるまでのあいだは、メンバー持ちよりのカードゲームで楽しみました。

※メイドスキー戦隊とは
「メイドさんが好き」の一点とかでゆるっと繋がっているサークル的なもの。
毎年一冊、たのしいメイドさんのアンソロジーを出しているよ。

新メンバーも加わり、メイドアンソロ3(仮)の〆切も確定。
メイドアンソロ3では、「手癖封印☆不得意チャレンジ」を予定しています。
自分の得手不得手、だれしもあると思います。
メイドスキー戦隊は長所のベクトルがバラバラなメンツで、
それがアンソロを個性豊かにしているわけですが、
ほら、たまにはイタリアン食べたいじゃん?
というノリで、手癖を封印してみよう、ということになりました。
それぞれが「普段やらないこと」に挑戦するのも、面白いじゃないですか。
幅、ひろげていきまっしょい。
秋も忙しいわよ~~!

と、いうのが、2019年春の東京遠征でございました。
次は関西だ!


追記

東京で関西人にばっかり出会います。
関西コミティアにも来てね!よろしくです!