2018年4月20日金曜日

新刊のあとがきにかえて

こんにちは。ここあです。
泣きながら発行したイラスト集から四か月。
またもべそをかきながら新刊をかき下ろしました。
新刊は『〈黒獅子物語1〉怒れる獅子の旅立ち(以下黒獅子』です。
文庫サイズ、436ページかきおろし、カバー・しおり付き。
イベント頒布価格1800円。
5月5日COMITIA124【け06b】
5月6日文学フリマ東京【イ-58】
5月20日関西コミティア52【N-60】
(※【】内はスペース番号です)
以上のイベントで手売りを予定しております。よろしくお願いします。

今回、黒獅子1には私、黒井ここあという人間についてを紙面にのせたくなくて、
今回はあとがきを書かず、載せませんでした。本の中には物語だけで、清々しいです。
ですが、入稿を終えてみると、少し感慨に耽りたい気持ちもむくむくしてきました。
書きたい人が書く、読みたい人が読む。
そういう気楽なツールとして、ブログを「要らない紙」みたいな
気楽な筆記用具として使うことにしました。
小説のあとがきがお好きな方は、どうぞ最後までお付き合いください。

2013年から書き溜め、2014年からネットに放出、
それからいじったりいじらなかったりを繰り返してきた小説です。
小説とは言えないなあ、と今は思います。シナリオでした。
元々は、オリジナルRPGを製作して遊ぶつもりで書いていたので、
展開がさっくり、やりとりもさっくり。
普通にどこにでもあるラノベでした。
幻想文学とか言える立場じゃなかった。赤っ恥。

RPGにしたかった手前、音楽も作りたいし、
音楽のリリースと合わせて新展開を見せたいし。
などと砂時計のようにくるくる、本末転倒を繰り返し、
なあなあのままにしてきました。

逃げるように、新しいお話を書いていたようです。
いつかもどってこられる看板作品がある、というのは
なんだかんだ言い合っても結局は愛してくれる親がいる
というのに似た感覚だったのかもしれません。

新しく作品を執筆し、取りまとめていく間にも、
いつも黒獅子のことを思いました。
枕頭に置いたのは、何物でもなく資料研究ノートです。
何度も何度も、同じシーンについて考えていました。
この堂々巡りは、終わらない悪夢でした。

メビウスから抜け出せることに気づいたのは、
『純白の抒情詩(上下・2016、以下リューリカ)』を刊行してからでした。
リューリカこそ、クライマックスを書きたくて、
または書きたくなくて、ずうっと手元で温めていたものです。
このクライマックスとは、主人公アルフレッドが、囚われのヒロイン・リュリを
助けに王城へ単身乗り込むというシーンです。
第四章で最も、主人公の心が裸になる大切なシーン。
わたしは、この直前で筆をおいてました。
このままでは、永遠にアルフレッドはリュリと出会えないのです。
しかし、著者の頭の中では、何通りも、何十通りも、
何百回と彼らは感動の再会を果たしています。
妄想するだけで、文字には起こしていませんでした。
今思えば、当時の私は、物語のエンディングを確定したくなかったのです。
『探偵王子とフォルトゥーネ(2017、以下フォルトゥーネ)』の第一章で
主人公の探偵パーシィが、事件の真相に迫る言葉があります。
「乙女が永遠に恋し続ける物語に、ピリオドを打ちたいだろうか」
これは、未来の私が過去の私を戒めるような、確信を突いたセリフとなりました。

想像力の豊かな人は、「もしも」遊びが大好きです。
それはとても素晴らしいことで、対人に使うことができれば
「おもいやり」そのものになります。
ですが、物書きとしては、酷い行為になるでしょう。
読者に対してだけではありません。登場人物に対してです。
彼らの人生をまっとうさせてあげること、一番色濃い思い出を
取り出して鮮やかに描き切ること、それが物書きとしての責任ではないでしょうか。

リューリカを書き終えて、刊行して。
私の枕元に、アルフレッドも、リュリも、
ジークフリートも、ロゼも立たなくなりました。
彼らは、彼らの一番の思い出を胸に、物語のかなた――未来へと歩き去りました。
その代わりに、ヒロインの一人・少女騎士ミラーが、私の枕元に来るようになりました。
彼女は、私が筆をおいたところから少し進んだ部分、クライマックスの場面を
怒りもせず、泣きもせず、ただただ何テイクも何テイクもやらされるのです。
悪夢は、違う悪夢になりました。
それは主人公グレイも同じでした。
彼は、彼が一番傷つくシーンを、何べんも何べんも演じます。
何度撮影しても、何度よい演技をしても、脚本がころころかわるために
ずっと終わらないクランクのようです。
そんなことを、ずっと脳内で続けるのは不毛でした。

自分のけじめとして、小説版を刊行しようと決めました。
デザインも一新、シナリオに深くかかわらない身体的特徴を変更しました。
黒獅子を一番脂ののった形で刊行したいという夢から、
小説を書く、すなわち、ピリオドを打つ訓練も、リューリカとフォルトゥーネ、
そして『魔女の煌めき屋(2017)』で少しは積んできました。
たったみっつのピリオドですが、ないのとあるのとは、全然違います。
歴史のこともPeriodといいます。
私の作家としての歴史が、本棚にある。並んでいる。
しかも自分の本棚だけでなく、ファンの方の本棚にも刺さっている。
こんなに嬉しい自己実現があるでしょうか。

黒獅子物語は、私にとってかけがえのない存在です。
物語を紡ぐ喜びを思い出させてくれたもの。
物語を分かち合う喜びをくれたもの。
常闇と常昼の国で私を慰めてくれたもの。
私と誰かを繋いでくれたもの。
そして、私のこれからを占うもの。
小説版を最初から最後まで書けるのは、私しかいない。

『〈黒獅子物語1〉怒れる獅子の旅立ち』
とても大切な、看板作品を、この春リリースします。
全7巻予定。
グレイの冒険と戦いを、どうか見守ってください。